あらゆるデータを閲覧できる「仮面ライダー図鑑」に、『仮面ライダービルド』に続き『仮面ライダーエグゼイド』のコンテンツも追加! 今回は両作品の脚本を一手に引き受けた武藤将吾さんと高橋悠也さんに、図鑑の感想や脚本制作の思い出などを語ってもらいました。
- 武藤将吾
- 2005年にテレビドラマ『電車男』で脚本家デビュー。その後はテレビドラマを中心に活動しつつ、『クローズZERO』『テルマエ・ロマエ』といった劇場用作品にも参加。『仮面ライダービルド』で特撮作品に初めて参加し、高橋悠也と同様にテレビシリーズ全49話、劇場版、Vシネマ2作品、ファイナルステージの脚本をひとりで手がけている。
- 高橋悠也
- 1978年2月1日生まれ。東京都出身。自身が主宰する劇団UNIBIRDの舞台作品の脚本や演出を手がける一方で、テレビドラマやテレビアニメの脚本を中心に活動。特撮作品初参加となった『仮面ライダーエグゼイド』では、テレビシリーズ全45話から劇場版、Vシネマ3部作までの全脚本をひとりで担当した。
「仮面ライダー」の全脚本をひとりで書き上げることの苦労とこだわり
———「仮面ライダー図鑑」をご覧になっての感想をお願いします。
武藤各項目に関して、すごく細かく説明が書いてあることに驚かされました。自分自身も忘れかけていることまで書いてあり、ああ、そうだったなぁ……と、脚本を書いていた当時のことを思い出します。
高橋デザインもすごくおしゃれだし、見やすいですよね。冬映画とか周年記念作品になると、過去のライダーも登場することが多いですし、こういった設定をまとめたものがあると、作家としては頼りになります。
武藤今後はこれを参考にすれば良いんだと思うと、助かりますよね。
高橋本編を見ればわかることもあるんですけど、このアイテムがどういった経緯で登場したのかみたいな情報を頭に入れてから脚本に落とし込むと、説得力に大きな違いが出ますから。あとは、やはり公式ならではということで、解説に加えて写真も見られるというのは大きなポイントですね。これが無料で閲覧可能というのは驚きです。
武藤本編と一緒に改めて楽しめるといいますか、世界観の広がりが楽しめることにも感動しました。図鑑制作スタッフの方々の仮面ライダー愛をすごく感じますよね。
高橋1話限りの登場人物にまで切り込んでいく感じとか、今までにないサイトですよね。『ビルド』の用語集にある〝アジの開き〟とか〝一斗缶〟とか、こんなのがあったんだみたいなのもいっぱいありますし。
武藤我々脚本家にとってバイブルになりそうですよこれは。数多くの打ち合わせの集合体というか、自分たちの血と汗と涙の結晶が入っている感覚があります。本編自体の思い出だけでなく、このエピソードではあんな苦労をしたな……、みたいなことも思い出せるので、僕ら制作側にとっても使い勝手の良さだけではない、非常に嬉しいサービスだと思います。
———脚本の打ち合わせというのは、どれくらいの人数で行われるものなのでしょうか。
武藤制作が始まった当初は、設定を決めるための打ち合わせになるので、各エピソードの監督さんたちも含め、10人くらいの大所帯で行います。ただ回が進んで設定が固まっていくと、ひとり減り、2人減りと……。
高橋最終的には4人くらいになりますよね(笑)。
———テレビシリーズ、劇場版、Vシネマと、お2人は作品に関わるすべての脚本を担当した者同士ですが、それは最初から、「お願いします」という形でのオファーだったのでしょうか。
高橋結果的に最後までできたというだけで、最初からすべての脚本を担当するという話ではなかったですね。ただ、『エグゼイド』の仕事が決まったときに六本木でプロデューサー陣とご飯を食べ、その席で「できることなら全部書きたいです」とは言いました。大森さん(プロデューサーの大森敬仁)には「そんなことできるんですか?」って鼻で笑われましたけど(笑)。口で言うのは簡単だけど確かにそうだな……と思いましたが、とりあえず1クール目くらいはキャラクターを固める意味でも全部やりましょうということになったんです。それで頑張って1クール踏破したあとに、じゃぁ次のクールも……と、その頃にはだんだんペースがつかめてきて2クール目もひとりで書いたんです。ただ、ここまでやってしまうと、もはや他の脚本家さんじゃ書けないんじゃないかというくらい各キャラクターのキャラクター性が固まってしまい、もうあとは走り切るのみ! ですね。
武藤僕もひとりでやる前提ではなく、序盤の方で何度か大森さんから、「サブの脚本家さんを入れますか?」という話はありました。ただ、もともと連続ドラマの脚本とかも僕はひとりで書くことが多かったんです。あいだに他の方が入ると、説明とか補足とかで余計に時間が掛かっちゃうんですよ。ただ今、思うとですが、まず仮面ライダーの脚本をひとりの脚本家が書くということが、すごく珍しいことなんだという感覚すらありませんでした。NHKさんの「大河ドラマ」とか「朝ドラ」はひとりなので、当たり前なんだろうな……と。でも、実際に担当すると恐ろしい現実が待っていたというとアレなんですが、映画とかVシネマ、連動するWeb媒体のスピンオフ作品が、テレビシリーズと同時に入って来るんですよ。これは仮面ライダーならではというか、「ひとりで全部でやるってのは至難の業だな」と思いながらやっていましたね。でも、ひとりだからこそ物語をブレずに描けたので、最後は、「ここまでやったんだから」という、自分にしかわからない何かに押されてやりきりました。
高橋確かに。終盤になるともう渡したくないという思いが強かったですね。
———図鑑を見ていると、『ビルド』も『エグゼイド』も膨大な数のライダーやアイテムが登場したことがわかります。これをどのように魅力的に見せていくのか、苦労したのではないでしょうか。
武藤アイテムを活躍させたり、フィーチャーさせたドラマづくりをしています。最初の頃は戸惑いもあったんですけど、途中から逆に助けられるようになっていきました。アイテムを活躍させることで、ひとつの盛り上がりがつくれるんですよ。
高橋僕も同じですね。各エピソードにおいて、新たなアイテムやライダーの登場というのが、ストーリーづくりの起点になることが多かったです。これは特撮作品ならではの経験だったと思います。
武藤逆に『ビルド』を経て特撮作品とはちがう連続ドラマの脚本を担当した際、何もアイテムが出てこないから「来週って観てもらえるんだろうか……」という不安を感じるんですよ。連続ドラマでの脚本打ち合わせの際に、「何かアイテム出しましょうよ?」みたいな話をしたこともありました(笑)。ただ、『ビルド』だと、最初にフルボトルが60本あると聞いたときには衝撃を受けました。どうやって60本も見せていくんだろう……と、途方に暮れたことはすごく覚えています。だから、主人公の桐生戦兎が自分でパワーアップアイテムをつくれるという人物にしたのは、自分が思いついた設定の中で一番褒めてあげたい点ですね。これで最初の絶望感からはずいぶん解放されました。
役者の演技と監督の演出がもたらす脚本への影響
———キャラクターやアイテムを活かすため、当初の想定とは違う展開になった部分はあるのでしょうか。
武藤エボルトが戦兎や万丈に憑依して、仮面ライダーエボルがドラゴンフォームやラビットフォームになるという展開が1週おきくらいに盛り込まれたのは想定外でした。「DXエボルドライバー」と「DXラビットエボルボトル&ドラゴンエボルボトルセット」の販売スケジュールに間隔が空くと思っていたいたら、同時発売だったんです。だから、どうやってこのふたつのフォームを連続展開で見せていくかということに関しては、かなり頭を悩ませたことを覚えています。
高橋僕の場合、キャラクター人気の影響で展開が変わっていくというのはありました。消滅した九条貴利矢の帰還や、ポッピーピポパポが仮面ライダーポッピーに変身するという展開は、最初の頃はありませんでした。檀正宗が変身するかどうかも、「ゲムデウス」というラスボスに関わるキーワードだけは決めていて、でも、せっかくならラスボスは仮面ライダーにしたほうがいいとなって、最終的に仮面ライダークロノスを出すことになりました。貴利矢に関して言うと、1クール目ということで、貴利矢の退場シーンは衝撃的に描いた結果、彼の人気が爆発し、復活につながったんです。檀黎斗=仮面ライダーゲンムという真実を知っているのは貴利矢だけという状況をつくることで、同じくそのことを知っている視聴者が感情移入しやすくするという狙いもあり、そういう意味だと、貴利矢は想定通りに動いてくれたキャラクターだといえますね。逆に回を重ねることで想定外の動きをするようになったのは、宝生永夢と檀黎斗ですね。黎斗は、インテリ社長から神を自称するぶっ飛んだキャラクターになりましたが、これは岩永徹也さんの演技に引っ張られてしまったというか、こちらもそれを面白がって乗っかった部分もあります(笑)。永夢も飯島寛騎さんの演技を見ていくうちに、彼の持つ役者としての持ち味を最大限に活かしたいな、と考えるようになりました。飯島さんって冷酷な雰囲気の目線を出せるんですよ。それを活かしたいと考えた結果生まれたのが、パラドに命の教育をするというシーンになります。
武藤役者さんの演技によってそのキャラクターの新たな一面に気づいたという点でいうと、『ビルド』では内海成彰がそれに当てはまりますね。そもそもライダーに変身する予定もありませんでしたし、あの足を上げる特徴的な杖の折り方なども含め、衝撃でした。まだ広げなきゃいけないキャラクターがここにもいた! という感じで気づかされたんです。ただ内海に関しては僕だけでは背負いきれない部分もあったので、石森プロの金子さん(資料担当の金子しん一)とも相談しながら、どうすれば内海が映えていくかを考えました。あの杖の折り方に関しては、僕は想像もしていなかったけど、金子さんが思い描いていたエキセントリックな内海なら成立するんです。そういうのをディスカッションすることでキャラクターの新たな一面を生み出すというのは、すごく勉強になる経験でした。同じように想像以上の変化をしたのは氷室幻徳でしょうね。序盤は悪役だけど最終的に仲間になるというポジションには、何か常識を飛び越えるようなフックが必要だという話になり、僕はそれが〝私服がダサい〟という1点でいける気がしていたんです。あと加えるとするなら、彼の会話の中で専門的なことが出てこないのは、実はあまり知識がないからという点。それまでは悪役だったけど、幻徳の本質が親の七光りであるということが判明した瞬間、愛されるキャラクターに転身するという構成だったんです。そうしたら諸田敏監督の演出により、私服がダサいどころかこんな服着てる人いないよ! というくらい衝撃的な格好をしており……。正直、僕の想像の斜め上をいってました(笑)。こういった脚本から監督さんの演出を経てさらに盛り上がっていくというラリーみたいな感覚は、仮面ライダーの醍醐味のひとつじゃないでしょうか。
———その他にも仮面ライダーの仕事ならではと感じるようなことはありましたか。
武藤過去の作品の脚本を読ませていただき、アクションシーンの盛り込む際、前半と後半で2回入るみたいな、特撮作品独自のフォーマットがあることに気づきました。分析する視点では見ていなかったので、仮面ライダーに関わってから改めて気づかされましたね。
高橋勉強のために『仮面ライダードライブ』の脚本を読ませていただいたのですが、とにかくカタカナとアルファベットが多いな……と。ライダーの各フォーム名は脚本ではアルファベットの略称で書いてあるんですが、最初の頃は「これはいったい何の略なんだろう……」と(笑)。それと、物語が後半になってくると、どんどん僕が文字を書く分量が減ってくるんですよ。
武藤アクションシーンが増えるからですよね。わかります(笑)。
高橋どのアイテムを使うのか、どの必殺技を出すのかということはある程度脚本にも書きますけど、実際にどんなアクションをするかまでは書かないですからね。
武藤監督とは別にアクション監督がいるくらい、アクションシーンというのは別物だと思うので、そこの展開はお任せしています。ただ、変身後の状態でもドラマ部分はあるので、絶対に必要なセリフに関しては、アクションシーンにも入れ込んでいます。
高橋あとは映画が12月に公開するのに脚本づくりは秋口にやる。これは普通の映画だと考えられません。この瞬発力というか、書いてすぐお客さんに届くというアクセスの速さは、特撮作品ならではですね。フレッシュな感覚がタイムラグなくすぐに劇場作品としてアウトプットできる。これはすごく楽しかったですね。
武藤視聴者の反応が見られるというのは大きいですね。今の連続ドラマだと、撮影後に放送という場合がほとんどですから
高橋それをまた本編にフィードバックできるというのは、すごい執筆体験だったなと思いました。
脚本家が待ち望むのは「仮面ライダー図鑑」の充実?
———お互いの作品に関してはどのように感じていますか。
武藤『エグゼイド』については、本当に特撮作品にフィットする脚本だなと思いました。連続ドラマとも2.5次元舞台ともアニメとも違い、特撮作品は特有の世界観にキャラクターたちを落とし込むんです。たとえば貴利矢の「乗る」や「乗せる」という口癖のように、そのキャラクターの象徴となるような言葉を言わせたりとか。僕の場合はそこに連続ドラマで得たノウハウを足すことで個性になると思い、脚本を書いていました。それで、高橋さんとは『仮面ライダー平成ジェネレーションズ FINAL ビルド&エグゼイドwithレジェンドライダー』で脚本を共同作成することになったんですが、高橋さんの最上魁星のセリフ「ファンキー」という言葉の使い方には衝撃を受けましたね。字面で読んだときは「これ大丈夫なのかな?」と思ったんですが、実際に完成した映像を観てみるとキャラクターにも作品にも幅が出て、本当に特撮にフィットするセリフ回しなんだなと実感したんです。
高橋僕が『ビルド』を拝見させていただき感じたのは、キャラクターたちの日常会話としての自然な話し方、リアリティのある会話劇に感銘を受けました。壮大な物語がありながら人間臭さを漂わせて、視聴者の感覚に寄せており、これは僕には真似できないなと思いました。あと抜群のコメディセンス。毎回のアバンは『ビルド』の特徴のひとつだと思うんですけど、シリアスな展開でもちょっと外してみたり、そこは流石だと感じましたね。『仮面ライダー平成ジェネレーションズFINAL』で、ライダーの決めゼリフが全員でかぶっちゃって聞こえないっていうのも、武藤さんのアイデアですし(笑)。
———今後また共同執筆されるとしたら、いかがでしょうか。
武藤いやどうでしょうね……。『仮面ライダー平成ジェネレーションズFINAL』のときは、かなりイレギュラーな書き方をしていましたからね。お互い交互に1稿、2稿、3稿と出し合って。
高橋セリフを書き直したりもしていましたよね。あのやり方はもう無理じゃないかな……。
武藤しかも万丈とパラド、お互いの相棒キャラクターを交換させて。なんで自分の首を締めるようなことをするかなと(笑)。ああいうのはさすがにもう勘弁ですね。
高橋ただもし共作をやるとしたら、また過去のライダーがたくさん登場するような作品になるんじゃないかなと思います。そのときには「仮面ライダー図鑑」を活用させていただきます。『エグゼイド』の図鑑も公開しましたが、そのときまでに全シリーズ揃っていたら嬉しいですね(笑)。
武藤毎年1作品ずつ増えていくので大変だと思うのですが、僕らだけでなく共作作品を書く脚本家さんたちのためにも、そこは是非よろしくお願いします。
取材・文:株式会社ライブ