仮面ライダーBLACK SUN
スペシャルインタビュー
白石和彌 × 樋口真嗣 × 田口清隆 前篇
『仮面ライダーBLACK SUN』の制作に脚本高橋泉氏、コンセプトビジュアル樋口真嗣氏、特撮監督に田口清隆氏の参加が発表された。今回はデザインや特撮の話を中心に、樋口氏、田口氏をお呼びし、白石監督と三人の鼎談を実施、制作状況を聞いた。
『仮面ライダーBLACK SUN』始動!
まずは白石監督から、オファーの経緯をお願いします。
白石映画『ひとよ』(2019年)の仕上げ作業を「東映デジタルセンター」でやっていたときに、プロデューサーの古谷(大輔)さんと初めてお会いしまして、ご挨拶させていただいたんです。そのときに、古谷さんが「大人向けの『仮面ライダー』作品をつくろうと思っています」ということを雑談程度でお話しされていまして、「大人向けの『仮面ライダー』作品ですか? それは僕もやってみたいですね」って返したんです。まぁそれは社交辞令的によくあるお話ですよね(笑)。
それから1ヵ月か2ヵ月後くらいでしたか、改めてお話させてくださいと古谷さんからご連絡をいただきました。それで東映本社へ行ったところ、その場に(東映プロデューサーの)白倉(伸一郎)さんがいて、『仮面ライダーBLACK』を大人向け作品としてリブートしたいので、正式に監督としてお願いしたいと。それが最初のオファーになりますね。
そのときの率直な感想はいかがでしたか。
白石まず「大人向けの『仮面ライダー』」ってどういうことをやればいいんだろう? ということですね。「僕にオファーしているということは、厳しい描写もある程度は大丈夫なんでしょうか?」と聞いたところ、そういうのも含めてOKなので是非、と。
最初はちょっと難しいかもしれないな……とも思いましたが、考えれば考えるほど、いろいろなアイデアが浮かぶんですよ。僕は特撮作品自体にそれほど多く携わってきたわけではありませんが、興味自体はものすごくあったので、単純にこれは大きなチャンスだし、やりたいことが詰まってる企画なんだなということにも気付かされ、是非やらせてくださいという流れになりました。
モチベーションも日々上がっていき、今となっては「仮面ライダー」のことを考える時間が24時間のうち20時間くらいになっていますね。
白石監督をサポートしつつ、世界観やキャラクターの設定の構築を担当する。
樋口さんへのオファーはどのようなものでしたか。
樋口僕は、白倉さんから連絡を受けて呼ばれました。もともと白倉さんとは時々ご飯を食べに行ったり、飲みの場でご一緒することも多々あったんです。特撮作品の新たな方向性を切り拓いたり、いろいろな意味でイノベーティブなことをして、東映を支える凄いプロデューサーというのが僕の白倉さんへの印象なのですが、そんな人からサシで呼ばれるっていったい何だろう? と。
少し話は遡りますが、ここのところ映画を一緒につくっている庵野(秀明)という男が、「仮面ライダー」作品(『シン・仮面ライダー』)を手掛けることになったじゃないですか。それを彼から聞いたとき、僕が「仮面ライダー」と絡むことはないんだろうな……って勝手に思っていたんです。例えば『ゴジラ』や『ウルトラマン』であれば、彼に負けないくらい好きだと言えるんですけど、仮面ライダー作品、特に初代『仮面ライダー』に関しては、もちろん観てはいましたし面白かったんですけど、その好きさ加減でいけば彼の大好きかげんには及ばない自負があった。そんなことを感じているタイミングで白倉さんから話があるので来てくださいと言われ、「なんだろう?」とすごい警戒線を張ってお話に臨みました。
最初は、僕の「仮面ライダー」への苦い思い出を延々と告白しました。子どもの頃の「仮面ライダーごっこ」では仮面ライダー役をやらせてもらえず、怪人役や戦闘員役で蹴られて痛かったとか、高いところから落とされたとか。そうしたら、白倉さんが「いや、そういうことじゃなくて、今日はお仕事のお話です」って。それで改めてうかがってみたところ、白石さんを監督に迎えて『仮面ライダーBLACK』をリブートするので、彼を支えてほしいと。白石さんはもしかしたら制作途中で、僕や白倉さんであればすぐにわかることが見えなかったり、リアリズムから攻め登っていく最中にどこかでつまずいてしまうかもしれない。そういったときに、同じ視点に立てる好きものというか、うまく言語化できて説明できる人を側に付けたいと言われ、「だったら早く言ってくださいよ!」って(笑)。そういうところから始まりました。
お引き受けするにあたり、自分の中で吹っ切れたポイントとして、題材が『仮面ライダーBLACK』というのは突破口になりました。『仮面ライダーBLACK』もどこか〝初代返り〟じゃないですけど、原点に戻ってゼロから新しい「仮面ライダー」をつくってみようというチャレンジ的な作品だったじゃないですか。あの時代の「仮面ライダー」ファンの楔的な作品にもなっていますので、それと同じようにできるというのであれば、自分が携わって大きな声を出してもいいのかな、っていう気持ちがありました。
樋口さんの役割としては世界観や舞台、キャラクターの構築をお手伝いするという感じなのでしょうか。
樋口そうですね。それに含めて現実に存在しない物やキャラクターをどうリアリティに落とし込んでいくのかを考えたり、それらを造形物にするのか、それともCGにするのかなどを決めます。そういえば白石さんとは最初、フランスでお会いしましたよね?
白石そうです。パリで開催されたイベント「ジャポニスム2018:響きあう魂」でお会いして、海外ということもあり、ふたりとも凄い変なテンションでした。帰国後にもピエール瀧さんを交えて3人で飲んだことを覚えてますか?
樋口コロナで大変になる直前でしたね。
白石僕が来たとき、おふたりはすでにベロベロで(笑)。もうそのときには、僕が『仮面ライダーBLACK SUN』をやるのが決まっていて。樋口さん、覚えてらっしゃるかわからないですけど、そこから樋口さんに、僕の仕事を手伝ってくださいっていう話はしていたんですよ。
樋口『仮面ライダーBLACK SUN』って話は出てないですよね。
白石そのときは言ってないです。ただ、樋口さんは「白石くんがやるならなんでもやるよ!」って言ってくれたんですよ。
樋口それは酔っていなくても言いますよ(笑)。
白石実はその話を真に受けて、白倉さんに樋口さんの起用をお願いしたんですよ。パリで初めてお会いして、当然、樋口さんの監督作品はいっぱい観ていたし、どういう人なんだろう……って興味はあったんです。それでお話をしてみたところ、樋口さんは〝映画の子ども〟だな、と。こんな人初めて見た! というくらいの衝撃でしたね。映画に愛され、映画人にも愛されている。それで樋口さんの才能や人柄にベタ惚れしてしまい。そのときは、まさか仕事をご一緒することになるなんて思っていなかったんですけど、『仮面ライダーBLACK SUN』を手掛けるなかで、樋口さんに手伝ってもらえれば僕もテンションが上がるだろうなと、僕から白倉さんにお願いさせていただいたんです。
樋口白倉さんからお話を聞き、白石さんが監督をやるのなら、間違いなく面白い作品になるだろうなと思いましたよ。現実に起こってることを真正面から見据えて、それを的確に作品の中に取り入れていく。白石さんの映画を観て、そういった部分に毎回ゾクゾクする興奮を覚えさせていただいています。
このアプローチで「仮面ライダー」をやるとなると、これはもの凄いことになるんじゃないかと。頭の中でもどんどん妄想が膨らみ、バチバチくるわけです。『仮面ライダーBLACK』を題材にしているというのもいいですよね。あの作品って見た目の印象がちょっと暗いんですよ。当時の子ども向け番組で、フィルム撮影なのにナイター(夜の撮影)が多いというのは衝撃的でした。子ども向けをあまり意識していないというか、そこから脱却したいという思いはあのころからあったのではないでしょうか。そういうことも思い出しながら『仮面ライダーBLACK SUN』の台本を読んでいくと、そこにはまさしく白石さんの世界が広がっていました。
この世界観の中で自分は何ができるんだろうか……。と、自分の中でいろいろと考えながらも、『仮面ライダーBLACK』という作品が誕生した経緯。石ノ森章太郎先生、そして我々の尊敬する大先輩の村上克司さんという、当時は株式会社ポピー、今は株式会社バンダイという、玩具会社のデザイン、まったく違う道を歩んでたものが交わって誕生したということも思い浮かぶんです。それを今一度、どのように構築できるんだろうかというところから、今回の僕の仕事はスタートしました。
〝改造人間や怪人〟という概念。それがどうして争うことになったのか。この世界に生き物としてそういったものが存在するとしたら、この社会はどうなるのだろう……。いわゆる怪人はいるんです、という〝お約束〟みたいなことで片付けるのではなく、〝なぜ生まれたのか〟ゼロからつくって行こうという意識で構築しています。
近年の『ウルトラマン』作品を手掛けてきた田口氏がついに「仮面ライダー」に参加。
田口さんへのオファーの経緯はどういったものだったのでしょう。
田口ある日、樋口さんから連絡があり「話があるから来なさい」と。それで樋口さんの事務所に行ったんです。『仮面ライダーBLACK SUN』を白石監督が撮るというのはそのとき既に知っていて、実は樋口さんが関わることも知っていました。なので、ここで樋口さんに呼ばれるということはもしかして……と思ったんですけど、行ってみたらやっぱり「『仮面ライダーBLACK SUN』を手伝ってほしい」というお話でした。
白石監督との面識というのは。
田口白石監督と初めてお会いしたのは、映画『麻雀放浪記2020』(2019年)の現場です。そのときは面識がなかったんですけど、『麻雀放浪記2020』の美術部にお世話になってる方がいて、「今、東宝に行けば戦後の日本を再現したミニチュアセットがあるぞ!」と言われ、だったら是非、撮影現場に行きたい、と。それで撮影現場に入ってミニチュア作りを手伝い、翌日も手伝ってたらそこに白石監督がいらっしゃって。そこで、ご紹介させていただくことになりました。そのとき、白石監督は僕のことを認識してくださってたんですか?
白石僕は『長髪大怪獣 ゲハラ』(2009年)観ていましたし、そのときもちゃんと認識していましたよ。
田口そうだ! 観ていただいたという話はしていましたね。その後は「ゆうばりファンタスティック映画祭」などでご一緒させていただくこと機会もありました。僕も白石監督の作品はたくさん観ていて、白石監督が撮る『仮面ライダーBLACK SUN』で、樋口さんも関わる。それで一緒にやろうと言われたら、断るわけもなく、お引受けさせていただきました。
ただ、現時点(2021年9月初旬現在)では、具体的にまだ何をするかは決まっておらず、客観的に見てるという状態なんです。台本を読みつつ造形物のいろいろなお話をさせていただき、ミニチュアにするかCGにするか……それとも実寸でつくるかとか、そういったお話の真っ最中です。
最初に、樋口さんのビジュアルコンセプトデザインみたいな資料を見せていただき「わぁ! これをやるんだ!」みたいな。とにかく夢いっぱいの絵が盛りだくさんで(笑)。もちろん全部やるわけではなく、制作途中の段階でやれる、やれないが決まってくるわけですが……。自分がこれまで関わってきた作品で習慣づいているといいますか、白石監督を交えた最初の打ち合わせでいきなり予算の話をしちゃって、白石監督から「そんなのあとでしょ」って怒られちゃったんですよ(笑)。だから、もっと夢を広げる頭にしないといけないな、と。今はいい意味で散らかってる状態なので、これからまとめていくのは大変な作業なんでしょうね。その大変になったときに本格的に参加しますので、今はそれを待っている状態です。
白石普通に映画を撮っていても、そういったお話はあるんですけど、今回の場合は単純に分量が多いというか規模も大きい。専門の方々の意見を聞くと「こっちのがいいです」って、だいたい面倒くさい作業の方に流されがちになるんですよね。
田口僕も今回面倒くさくなる方を提案してしまいましたね(笑)。
白石でも、面倒くさくないと、作品って面白くならないんですよ、絶対的に。そういう方向で一緒に作業をしてくれて、道しるべを示してくれる方がいるというのは、とても心強いです。
樋口さんの参加が決まり、一緒に焼肉を食べに行ったんですけど、そのときに樋口さんが言ってたことがすごい衝撃でした。「白石をうまいこと使って、新しいことをやりたい」って。「監督が言ってるんだから、しょうがないじゃん」というのを隠れ蓑に、今までやってないことをやる、と。そんな樋口さんのチャレンジ精神には僕もビシビシくるし、逆に僕にとっては樋口さんや田口さんの力を借りながらワガママを言えるという、実は最強の環境が整ってるのではないかという気もするんです。
田口普段だったらこうするということを、白石さんがいないところで「俺たちは全然、これでいいんだけど、監督がなんて言うのかな……」みたいな(笑)。
白石でも、いずれはいろいろと問題を抱え、それに対し答えを出さないと成立しなくなってしまう時期が来ますし、徐々に近づいています。だから、今が作業としてはいちばん楽しい時期なんでしょうね。
次回後編は10/11更新予定。三人に本作にかける思いを聞いた。
そして、公式ホームページでは掲載しきれなかった三人のインタビューの全貌が書かれた『仮面ライダーBLACK SUN プロダクションノート』が手に入るクラウドファンディングも実施予定。詳しくはこちらから。